JAあいち豊田
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アドバイスは本人の気持ちに配慮して
2008年7月の記事
 先日、88歳のお母さんと暮らしている娘さんから相談を受けました。お母さんがお風呂に入ったあと、ちり紙が湯船にたくさん浮いている。そのまま流すと詰まるので、すくったりしているが本当に大変で、つい母をガミガミしかってしまうと言うのです。
 年を取ると尿漏れを経験する人が少なくありません。特に女性は、尿道が短くぼうこうや尿道周辺を支えている骨盤底筋が緩みやすいため、尿漏れが起こりやすくなります。疾病の場合もあるため、受診が必要なこともあります。
 お母さんは尿が頻繁に漏れて、困り果てて自分なりの工夫でちり紙を当てているのでしょう。しかし、そのためにちり紙が湯船に浮いて困るという事態になっている。そんなときにガミガミしかっては逆効果ですし、2人の関係を損なうことになりかねません。
 そこで私は、彼女に軽失禁パッドや失禁ショーツをお見せしました。パッドは生理用品と同じようなものですし、失禁ショーツは、またの部分が少し厚くなっていますが、一見すると普通のショーツです。「これをいきなり『使って』などと言わずに、『私、こんな便利なものを見つけて重宝しているの』など、ご自分のこととして話してください」と伝えました。その上で「『便利だからお母さんにもと思って』というように、お話ししてみてください」と言いました。
 お母さんに面と向かって言うのではなく、何より本人のプライドを守ることが大切など、あれこれお話ししたところ、彼女は「分かりました。何とかうまくやってみます」と言ってくれました。
 しばらくして彼女から「あれから母はパッドをうまく使ってくれています。本当にありがとうございました」という電話がありました。弾んだ彼女の声を聞きながら、本人の気持ちに配慮し、いい情報をうまく伝えることの大切さを感じました。

 

水分補給を忘れずに
2008年6月の記事
 夏に向かう季節は、日が暮れるのが遅いため、外で過ごす時間が長くなります。そんなとき、特に気をつけてほしいのが水分補給です。水分が不足すると脱水症状を起こします。ひどくなると意識がもうろうとして、生命にかかわってきます。
 「外へ出掛けると、トイレが心配。だから水を飲むのを控えておこう」と言う人がいますが、これは困りものです。水分が不足すると尿が濃くなり(濃い黄色になる)、かえってトイレが近くなるのです。そのため外出先でも小まめに水分を取ることが大切なのです。
 知人のAさんは先日、友人たちと温泉旅行に行きました。バス旅行でトイレが心配だったAさんは、あまり水分を取らないように心掛けていたそうです。宿に着いてからは、大好きな温泉に何度も入りました。また食事中は、ビールやお酒をたくさん飲んだといいます。
 ところが翌朝、Aさんは気分が悪くなって、救急車で近くの病院に運ばれてしまいました。脱水症状を起こしていたそうです。
 アルコールを分解するためには、水分を必要とするため、のどが渇きます。お風呂上がりにはアルコールよりも、水かスポーツドリンクを飲むべきでした。
 元気になったAさんに、これからは一日当たり1.5Lほどの水分を取るよう心掛けてほしいこと、旅行や外出でトイレが心配なら、使い捨ての携帯トイレもあることをお話ししました。
 体に水分は必要です。高齢者が出掛けるときは、水分を補給することを忘れないでほしいものです。トイレが心配なら、それをサポートするグッズもあるのですから。

 

車いすはクッションが重要
2008年5月の記事
 町で車いすをよく見掛けるようになりました。私が仕事を始めてから、かれこれ20年になりますが、当時は車いすを見掛けることはほとんどなく「バリアフリー」という言葉さえ、知られていませんでした。これも、道路環境の整備や高齢化が進んだことによるものだと思います。
 公衆トイレや新幹線などにも、車いすが入れるトイレが設置されているのはとてもいいことです。しかし、肝心の車いすがしっかり選ばれていないと感じることがよくあります。
 車いすを使う場合は、まず何よりクッション選びが重要です。畳むことを優先した車いすは、座面がたわみやすく、クッション性が全くありません。段差を超えるときに、お尻に響くだけでなく、座り続けるのも辛くなります。
 車いすの上に座布団を敷いている人をよく見掛けますが、座布団はクッションとは異なり「あった方がまし」という程度でしかありません。クッションは、座ったときの状態にもよるので、福祉用具に詳しい専門家に相談してください。
 車いすはどのような場合であれ、アームサポート(ひじ掛け)が楽に外れたり、跳ね上げられたりするものがおすすめです。アームサポートが外れれば、トイレの便座に横から移乗できるので、本人も介護者も楽です。外出時に限らず家の中でも、ベッドから車いすへの移乗が楽になり、状態によっては介助なしで移乗できる場合もあります。
 小柄な人が座幅の広い車いすに乗っているのを見掛けることもありますが、座幅が広過ぎるのは姿勢を崩すもとです。座幅も奥行きもアームサポートの高さも使う人に合っていることが大切になります。
 車いすはその人の行動範囲を広げる重要な手段です。だからこそ、その人に合ったものを使ってください。

 

立ち上がることは元気の秘訣
2008年4月の記事
 年を取ると、テレビを見ている時間が長くなります。畳から立ち上がるのも大変になるし、動くのがおっくうになるからでしょう。しかしそれでは体がますます弱ってしまいます。まずは動きやすくする工夫が大切です。
 畳から立ち上がるのが困難になったときは、座布団の横に安定のいい台を置いておきましょう。そこに手を突けば立ちやすくなります。あるいは厚めの座布団やクッションを敷いておくだけでも、かなり楽に立ち上がれます。
 それでも立つのが難しくなったときは、電動で上下する座いすを使ってみましょう。いすの座面よりも高くなるので、これを使えば無理なく立つことができます。
 私ごとで恐縮ですが、父は掘りごたつに座ってよくテレビを見ていました。脳梗塞(こうそく)のため、体が不自由になったときは、横の台にしっかり手を突いて立っていました。娘の手を借りることなくいつも自分で何とかしていたのは、父なりに気も使い、頑張ってもいたのだと今になって気づきます。
 「電動座いすを買ってあげないと」と思っていた矢先に亡くなってしまいましたが、父は立ち上がると身なりを整えて買い物に行き、帰りには喫茶店でコーヒーを飲んで、そこのママと話をしていました。そんな地域での暮らしが父を支えていたのだと思います。
 立ち上がること、そして外に行くこと、これは元気の秘訣(ひけつ)です。立ち上がることや移動のための工夫は、暮らしの中で最も重要なものとなります。今では電動昇降座いす以外にも、天井と床に突っ張って取りつけられる手すりなど、立つための用具はいろいろあるので、ぜひともそれらを上手に使って、行動を広げていただきたいものです。介護保険により安価で借りられるものもあるので、一度ケアマネジャーに相談してみてはいかがでしょうか。

 

補聴器はその人に合った器具を
2008年3月の記事
 耳が遠くなった高齢者と暮らす家族から、次のような相談を受けることがよくあります。
 「母は難聴のため、テレビの音が大きくて困っています。母と会話するときには、大きな声で言わないといけないので疲れてしまいます。補聴器を購入したのですが、使ってくれないのです」
 ひと口に難聴といっても、外耳や内耳の障害による伝音難聴や、その奥の内耳や聴神経の障害による感音難聴など症状はさまざまです。
 高齢者の場合、加齢によって引き起こされる感音難聴が多いようです。高い音は聞き取りにくくなり、言葉の判断力が低下していきます。
 症状が表れたら、耳鼻科の診断を受けて、聴力を検査した上で補聴器を使うのがいいのですが、人によっては、補聴器に慣れず使わない人も少なくありません。
 その場合に役立つのが「助聴器」。この器具は、聴きたいときに耳に当てれば、音が大きく聴こえるというものです。良い点は、相手の声を聴きたい、そのときだけ使えることです。難点はずっと手で持っていないといけないことで、テレビを見るとき耳に当てているのが大変です。
 テレビを見るときならば、ワイヤレスのヘッドホンで、それ自体に音量調節機能があるものが開発されています。テレビの音は消えないので、周囲の人も一緒にテレビを楽しめます。
 そのほか電話の声を大きくするタイプなどもあり、今はいろいろな器具が開発されています。
 耳が遠くなると大切な情報も届きにくくなり、そのことで本人は孤立し、人と人との関係に支障を来す場合もあります。さまざまな器具が市販されているので、生活の場面に配慮した上で、その人に合うものを使ってください。

 

整理整頓でけが防止
2008年2月の記事
 寒い季節は部屋で過ごす時間が長くなります。外に出掛けるよりも、こたつに入ってお茶を飲みながらテレビを見て、といった過ごし方になりがちです。
 そうなると体を動かす機会が減ってしまうので、体力や筋力が衰えてしまいます。「こたつとリモコンが、寝たきりをつくる」という言葉を聞いたことがありますが、便利な暮らしはその一方で落とし穴もあるのです。
 部屋の中でもしっかり体を動かすことを心掛けてください。元気な人だけでなく、体が不自由な人こそ、腕や脚を動かすなどの運動が大切です。
 元気に春を迎えるためにも、長い時間を過ごす部屋が安全かどうか、一度確認してみましょう。家庭内の事故は、居間でよく起こります。事故といっても大きなものではなく、転んだり、ねんざしたりといったことですが、脚をかばううちに足腰が衰えて寝たきりになる場合もあるのです。小さなけがや事故にも注意したいものです。
 例えば、こたつの布団や座布団につまずいたり、滑ったりすることが少なくありません。無造作に置かれている新聞紙も危険です。歩くところには、不用意にものを置かないようにしましょう。こたつや電気ストーブなどのコードも脚を引っ掛けます。長いコードは畳や床にしっかり留めておくことをおすすめします。新聞なども置く場所を決めると安心ですし、探さなくてもいいので助かります。
 安心な暮らしというのは、整理整頓をちゃんとすることにほかなりません。ただ、わが身を振り返ると、年を重ねるにつれて、面倒になってくるようです。部屋を片づけることは体を動かすことにもなります。元気に暮らすためにも、冬こそ部屋の整理を心掛けようと思います。

 

衣服は思わぬ事故のもと
2008年1月の記事
 Gさんは今年83歳になるおしゃれな女性。いつも薄化粧をして、身だしなみを整えています。
 そんなGさんは先日、階段で転びそうになって、怖い思いをしたと話してくれました。高齢者の転倒や転落は、骨折やねんざにつながり、それがもとで暮らしが変わる人も少なくありません。転ばぬ注意は何より大切です。
 Gさんが階段で怖い思いをした原因は、お気に入りのロングスカートでした。スカートが長いと、階段ではすそを踏み、バランスを崩してしまうこともあります。
 高齢者の衣服と事故は関係が深いのです。ロングスカートは転倒のもととなり、地味な上着は夜間、交通事故に遭いやすくなります。着物のようなゆったりした袖は調理中、着衣に引火する原因にもなります。
 スカート丈は、長過ぎない方がすそを踏みにくく、夜間に外出するときは、派手な色か反射シールなどを上着に張ると事故防止につながります。調理するときは、不燃や難燃繊維製のかっぽう着にしたり、アームカバーをすると、炎から身を守ることができます。
 衣服は快適な暮らしとも密接な関係があります。ゆったりとした袖つけの方が、脱ぎ着は楽ですし、ウエストのきついゴムは、肌を圧迫するだけでなく、排せつなどの場合に着脱が大変です。ゴムの伸縮性などにも注意が必要となります。
 そんなことをGさんに話したところ、彼女は「なるほど」と、いたく感心していました。これからはデザインだけでなく、そうした視点からも衣服を選ぶと、うなずきながら話してくれました。
 衣服は自分を表現する大切なものです。だからこそ、デザインにこだわりたい。しかし年を重ねれば、それ以外にも配慮しなければならないことがいろいろとあります。

 

安心して入れる湯船
2007年12月の記事
 知人のKさん宅に久しぶりにお邪魔しました。Kさんは今年78歳になる女性で、畑仕事が大好きです。そして畑から戻ったら、ぬるめのお湯にゆっくり入るのを楽しみにしています。
 ある日のことです。
 「おとといお風呂の中で体が滑って、おぼれそうになったんよ。ものすごう怖かった」と彼女は話してくれました。彼女の家のお風呂は洋式の浅くて長いお風呂。湯船の一方が斜めになっています。そこに具合よく、もたれているうちに滑ってしまったらしいのです。
 「こんな怖い思いをしなくていい方法があれば、教えてほしい」と相談されました。
 確かに体を斜めに倒していると、体が浮きやすくなるので滑りやすくなります。そんな危険を防ぐため、近ごろのシニア用の湯船は、寝て入るような洋式のバスタブではなく、それより深めであまり傾斜がついていない形になっています。しかしKさん宅の湯船の形を変えるのも難しいので、安心して入れるよう工夫することにしました。
 まず、湯船の底に滑り止めのマットを敷きました。滑り止めマットにもいろいろな種類がありますが、小さな吸盤が数多くついて、湯船にくっつくものが適しています。これでかなり滑りにくくなります。そして湯船に入った状態で体を支えられるよう手すりをつけました。湯船の縁にはしっかりと縁が持てるよう、湯船の縁専用ゴムマットをつけます。湯船の縁をしっかりつかめれば体は安定します。取りあえずこれで様子を見ることにしました。
 数日後、Kさんから「お風呂に安心して入れています」と連絡がありました。声が弾んでいて、元気そうな様子にうれしくなりました。

 

手すりは多い方がいい?
2007年11月の記事
 先日、久しぶりに友人の家に行きました。高校のころによくお邪魔した家で、家族ぐるみの長いつき合いになっています。
 友人のお父さんは高齢による筋力低下で、手すりに頼って家の中を移動しています。家に入って驚いたのが、手すりの多さ。廊下の奥のトイレまで、ずっと手すりがついています。それはそれでいいのですが、居間のソファの後ろや台所に至るまで、手すりがありました。
 ソファの手すりは、使わないばかりか邪魔にさえなり、いくら手すりが必要といっても、こんなふうにそこかしこに手すりをつけるのは考えもの。廊下の両側に手すりをつければ、廊下は狭く、通りにくくなります。
 手すりは移動する補助や、立ち上がるときの助けにもなります。使う人の身長や動作を考えながら、良い位置につけることが肝心です。友人の家の手すりは横手すりばかりで、ソファから立つときに便利なものは、つけられていませんでした。よく見ると、玄関の横手すりは位置が高過ぎるようで、手すりとしては使われず、そこにスリッパが差し込まれていました。
 多くの人が、移動には手すりが役立つと思っています。それは間違いではありませんが、大切なのは「必要な場所につけること」。低めのたんすを手すり代わりにする人もいますし、ベッドのヘッドボードが役立つこともあります。手すりではなく、歩行器の方が適切な場合もあります。
 横手すりの位置の基本は、ひじを軽く曲げた状態で握れる高さ、縦手すりはおじぎをしながら立ち上がるという動作を誘導してくれる位置です。その基本の上で、専門家と相談しながら設置しましょう。

 

ポータブルトイレの選び方
2007年10月の記事
 居室とトイレが離れているので困るとか、2階で寝ているので夜間はトイレまで行くのが大変という場合、ポータブルトイレが役立ちます。ポータブルトイレは、使い勝手の良い場所に置けるのが大きな利点で、夜間ならベッドの脚元に置けば、すぐに排せつできます。最近は、いすにしか見えないようなものもあり、機能的にもさまざまなものが開発されています。
 先日、お母さんと同居している息子さんから、「母はポータブルトイレから立ち上がる際に転倒してしまい、それはもう大変でした。やはり、もうおむつをしないといけないのでしょうか?」との相談がありました。
 聞けば、量販店で軽くて安価なものを購入したとのこと。安定性もなければ高さの調節もできないので、それでは転倒するのも無理はありません。2階で寝ているお母さんは、ひざが悪いため立つのが大変。そんなお母さんにとって、軽くて座面の低いポータブルトイレが使いにくいのは当然ともいえます。
 そこで「安定性が良く、高さが調節でき、アームレスト(ひじ掛け)があるものを選んでいただかないと、使いにくいのは当たり前。ひじ掛けは跳ね上げられるものがいいですよ」と伝えました。
 ポータブルトイレは、介護保険制度を利用している方なら少ない負担で購入することもできます。まだまだ元気という方にも、体調が悪いときなど、あれば便利なものです。しかし、本当に便利なものにするためには、選び方が大切です。安易に購入すると、かえって問題が生じることもあります。その人に合ったものを選んでほしいですね。

 

福祉用具を使いこなす
2007年9月の記事
 友人から「父が介護ベッドを使うようになったのだが、あまりきちんと使えていないようで、リモコンを触っているのを見たことがない」という電話がかかってきました。
 電動の介護ベッドを介護保険でレンタルしたものの、その機能をしっかり使っていないというのは、よくあること。私は早速、彼の家を訪ねました。
 電動ベッドは8畳の部屋に置かれていました。ベッドには介助バー(手すり)も取りつけられています。お父さんは、右半身が少しまひしているのですが、ベッドの左側は壁につけてあって、ベッドの右側から起き上がっていました。これでは左側がうまく使えず、起き上がりにくいといえます。
 そこで、ベッドの位置を変えてもらって右側を壁につけました。これで、左手でベッド柵を握って寝返りができますし、立つのも楽になるはず。早速ベッド横から足を下ろして座ってもらい、その姿勢から立ち上がってもらったのですが、それがとても難しかったのです。
 見るとベッドの高さがお父さんのひざ下の長さに比べてかなり低く設定してあり、これでは立ち上がるのは大変です。そこで、ベッドを高くしてもらいました。
 座るだけなら、ほぼひざから下と同じくらいの高さがいいですし、立つときはかかとが少し浮くくらいが楽です。今度は、先ほどと違ってスムーズに立ち上がり、「これは楽」と喜んでくれました。「介護ベッドも、使い方を知らないと宝の持ち腐れですね」と友人は話していました。
 福祉用具はしっかり使いこなすことが重要ですし、使う限りは機能をきちんと理解してほしいものですね。

 

年を取ってからこそおしゃれを
2007年8月の記事
 年を取ると体の動きが悪くなります。私は五十肩のために、左手が上がらない状態がほぼ1年続きましたが、これだけでもとても不自由でした。お風呂に入ったときは背中を洗うのが大変でしたし、背中にボタンがある服が着られませんでした。
 そんなことを経験して初めて、右半身が不自由だった父の大変さを知りました。父は三度、脳梗塞(こうそく)で入院。病院ではいつも懸命にリハビリに励み、おかげで右半身もかなり動くようになりました。
 父はとてもおしゃれな人で、元気なころはいつもきちんとネクタイを着けていました。しかし、体が不自由になってからは、ネクタイの代わりにループタイをするようになり、カフスのないシャツを着ていました。このように自分なりの工夫で身だしなみを整え、父は毎日のように電動スクーターで買い物や喫茶店などに出掛けていました。そのことが父を一層元気にしたのだと、今になってあらためて思います。
 年を取るとおしゃれから遠ざかる人もいますが、むしろ年を取ったときこそ、身だしなみを整えて出掛けたいものです。体が不自由になっても、片手で背中を洗える自助具があります。シャツのボタンを留めやすくするものや、服を着るための自助具なども市販されています。
 父は介護用のエプロンが大嫌いで、「子どもではあるまいし」と使おうとはしませんでした。もちろん服は汚れてしまうのですが、それでもエプロンにこだわった父の気持ちも分からなくもありません。今では、ベストにしか見えない素敵なデザインの介護用エプロンもあります。父にそれを見せられないのが、ちょっと残念です。

 

自分に合った車いすを選ぶ
2007年7月の記事
 Sさんは外出が大好きな65歳の男性。愛車に乗って毎日のように出掛けています。といっても、彼の愛車は自動車ではなく高機能車いす。彼はこれを自分でこいでいます。
 駆動輪(大きな車輪)は一般の車いすよりも前方に軸位置があり、小回りが利いてこぎやすくなっています。ひじ掛けは簡単に跳ね上げることができ、外出先でトイレの便座に乗り移るときなどに便利です。足置き台の位置や座幅などは、体に合わせているので姿勢が楽。クッションも自分に合うものを選んでいます。
 彼の車いすは調整が可能で、駆動輪の軸位置やひじ掛けの高さが簡単に変えられます。オーダーの車いすもいいのですが、調整できるものが何かと便利です。体の状態が変化したとき、オーダーのものでは変更できませんが、調整できれば対応が可能です。
 Sさんは以前、標準型の車いすを使っていたそうですが、それでは姿勢もつらくて長く座っていられなかったとのこと。車いすを動かすのも大変だったと言います。彼はそんな経験を基に、「自分に合った車いすを使うことが何より大切」と言っています。
 Sさんは、両手でハンドリムという駆動輪についている輪を動かすのですが、手に力が入りやすいように車いす用手袋をはめています。これをはめることで滑りにくく、格段にこぎやすくなったそうです。
 外出するのは大変ですが、自分で楽にできれば行動範囲が広がります。そのためにも適切な車いすを選ぶことが大切です。一口に車いすといっても多種多様。だからこそ慎重に選びたいものですね。

 

肌とおむつの良い関係
2007年6月の記事

 寝たきりでおむつを使用している人から「おむつのせいか肌が赤くなっています。本人もかゆいのか、かきむしっています」という相談を受けることがあります。
 おむつを使用している場合、尿が漏れないようにすることが介護者にとって重要ではあるものの、「蒸れないように」という配慮や肌を良い状態に保つことも考えないといけません。なぜなら、おむつが原因で床ずれを作ってしまうことが少なくないからです。
 高齢者の肌は、表皮が薄くてはがれやすく、しかも皮膚の弾力が低下して乾燥しています。そんな肌がおむつで蒸れてしまうと、簡単に痛んで赤くなってしまいます。そのため、肌を良い状態に保つことが大切です。
 おむつ交換の際は、尿パッドを引き抜かないことが肝心です。引き抜くと摩擦で肌がこすれてしまいます。また清拭(せいしき)するときも、肌をこすらず軽くパッティングすること。同じおむつで長時間放置すると、どうしてもおむつ内の湿度が高くなるので、まめに交換しましょう。
 おむつには裏の防水シートに通気性があるものも市販されています。そのようなものを使った方が蒸れはかなり軽減されます。もちろん尿パッドは何枚も重ねないようにします。
 私は特別養護老人ホームで排せつに関する事例検討会を行っていますが、肌をかきむしって、そけい部(もものつけ根)や仙骨部が赤くなっている人などは、おむつの当て方やスキンケアが問題である場合が多く見られます。
 床ずれは治すのも大変です。だからこそ、肌とおむつという視点からも、排せつケアを見直してほしいですね。

 

ウオーキングは安全に
2007年5月の記事

 私の友人はウオーキングが大好きで、毎晩30分ほど歩いています。健康維持のために始めたとのことですが、やってみると楽しく、彼女はウオーキングにはまっています。
 ところが先日、彼女が車にひかれそうになりました。夜道で地味な服を着ていたため、車から見えにくかったようです。
 統計によると、高齢者が交通事故に遭うケースは年々増加しています。家の付近でよく起こり、時間帯は夕方から夜間にかけてが多くなっています。地味な衣服が分かりにくいこと、また動作が緩慢になることなどが要因と見られています。
 そこで私は彼女に「衣服か靴に反射シールを張るように」と助言しました。車のライトで光るものがあれば、それだけ早く人の存在を発見できて事故を防げるからです。もちろん衣服は派手なものの方がいいでしょう。彼女はその後、派手な服を着るように心掛けているそうです。
 高齢者のウオーキングには、体調の変化などハプニングがつきものなので、警報ブザーもかばんに入れておきたいものです。気分が悪くなったり、事故に遭ったときに人を呼ぶことができるからです。首から下げるなど、使いやすい場所にあることが肝心です。
 忘れがちなのは水分補給。水筒などを持っていくか、家に着いたら水を飲みます。歩く時間や季節にもよりますが、夏にかけての時期は夜間でも気温が高いことがあります。脱水症状を起こすだけでなく、脳梗塞(こうそく)の引き金にもなります。
 ウオーキングは健康維持だけでなく、ストレス解消にもなります。だからこそ身の回りを整えて、安心して出掛けたいものですね。

 

入れ歯の手入れ
2007年4月の記事

 おいしく食べることこそ、健康の源といっても過言ではありません。しかし、年のせいで歯がなくなり、歯茎で食べるために柔らかいものしか食べられない人もいます。
 そんなとき、自分に合う入れ歯を作ることが大切です。歯がないと食べるものが制限され、表情も少し寂しくなります。また、歯でかむことで脳が刺激されるともいわれます。
 長く使っているうちに入れ歯が合わなくなる人もいます。そんな場合も、現状に合ったものに作り直す必要があります。
 ただし、入れ歯は単純に作ればいいというものではありません。自分の歯と同様に手入れが大切です。寝る前には柔らかな歯ブラシで磨いて、洗浄剤が入った容器に入れておくなど清潔に保管しましょう。
 Aさんは入れ歯を磨かず、洗浄剤に漬けておくだけの毎日でした。そのせいか、しばしば口内炎になることがあり、歯科医に相談したところ、「入れ歯の手入れが悪いから」と言われたそうです。入れ歯もきちんと手入れをしないと、歯石や歯垢(しこう)がたまります。常に清潔に保っておかないと、健康を害することにもなります。
 入れ歯用の洗浄剤には、いろいろなものがあります。口臭を取り除いて洗浄するものが一般的ですが、漬けておくと歯石などを除去してくれるものもあります。
 自分の歯をもう一度見直してみましょう。しっかりよくかんで食べることは、消化を助けます。自分の歯であれ、入れ歯であれ、歯の手入れは大切です。何よりそのことで「いつまでもおいしく食べること」につながるのですから。

 

道具で気持ちを支える
2007年3月の記事

 友人のお母さん (Eさん)は手芸が大好きで、以前は毎晩のように夜なべして、小さな人形を作ったり、かばんに刺しゅうをしたりしていました。ところが年とともに老眼が進み、細かなところが見えにくくなって、だんだん手芸から遠ざかってしまったとのこと。「楽しみを失ってしまった母は元気がなくて…」と友人も心配そうです。
 目が悪くなって裁縫をあきらめたり、耳が遠くなったために、好きな音楽鑑賞をやめてしまったり、というのはよく耳にすることです。年を取れば体のあちこちに不具合が生じるのは自然なこと。しかし、ちょっとした道具や工夫などで、これまでと同じように裁縫などを楽しむことは可能です。
 目が悪くなり、細かなところが見にくいのなら、手芸用の大きなルーペが役に立ちます。これは絵を描くときの画板のように首から下げて、胸で留めるので、手に持つタイプの普通の拡大鏡とは違って両手が自由に使えます。
 Eさんはこのルーペを大変気に入り、これで刺しゅうを再び楽しんでいます。「目が見えにくくなって、もう大好きな刺しゅうもできないとあきらめかけたとき、このルーペに出合いました。そうしたら、これまでと同じように好きな刺しゅうができるんです。私の人生、まだまだこれからっていう気分になりました」とうれしそうに話していました。
 老いを支える道具はさまざまなものがあります。それは日常の暮らしに役立つ大切なものであると同時に、その人の気持ちをしっかりと支えるという意味も持っています。そのことが道具の大切な役割だと、あらためて感じます。

 

 

足もとの工夫でけが予防
2007年2月の記事

 先日、友人のお母さんがリビングで転倒して入院しました。「家の中は安全だと思っていたのに、事故はよく起こっているのね」と友人。確かに家の中で転んだり、階段から落ちて大けがをしたり、時には亡くなってしまう人も少なくありません。
 大切なのは足元の工夫です。階段からの転落でも、リビングでの転倒でも、手すりがないとか、新聞紙で滑ったなどという直接の原因はあるものの、靴下を履いていて滑ったり、スリッパが脱げそうになったり、という点も見過ごせないものです。
 まず靴下。裏に滑り止めがついたものもありますが、かえってバランスを崩してしまう場合もあります。靴下だけでなく、歩きやすい室内履きや室内用サンダルを履くことをおすすめします。
 一般的なスリッパは、階段などでは足から離れやすくて危険です。また、つま先が上がっていない(トゥスプリングがない)ため、つまずきやすく、転倒しやすくなります。歩きやすく、足から離れにくい室内履きを履いてほしいと思います。
 ただ、「室内履きは履くのが面倒」と言う人もいます。そんな場合には、足の甲をしっかりくるむような室内サンダルが便利です。形状にも工夫があり、つま先も上がっているためつまずきにくくなっています。市販のものをよく見て選びましょう。
 あるいは草履やわらじのように、鼻緒があるものも脱げにくいといえます。土産物店などで近ごろよく草履を見掛けますが、多少手を加えて室内履きにするのもいいのではないでしょうか。
 丁寧に見回せば、重宝するものがいろいろあるのですね。

 

「気持ち」に気づく
2007年1月の記事

 今まで介護のいろいろな相談を受けてきましたが、印象に残っているものがあります。
 その一つは、母を介護している娘さんからのもので、「母の枕が毎晩、尿で濡れていて困っています」という内容でした。5人兄弟の末っ子の彼女は、母から大切にされたことがなく、良い関係ではなかったのに母の介護をしなければならなくなったそうです。
 「枕が尿で濡れるって、どうしてでしょう。お母さんの横で寝ていらっしゃいますか?」と尋ねると「あんな母の横で寝たくないですし、きっと私への嫌がらせなんです」と言う彼女。「でも、その様子が分からないと解決策も分かりません。ですから、一度横で寝てあげてください」と何度も頼んでみたところ、彼女はようやく承知してくれました。
 ひと月ほど過ぎたころ、彼女が明るい表情でやって来て、「横で寝ると母の枕は濡れないんです」と話して帰っていきました。それから、またしばらくして彼女が来て、「生まれて初めて、母が私に『世話になってすまんなあ』と言ってくれたんです」と涙ぐんで話していました。
 介護されることは楽ではありません。もちろん、介護する方も大変な苦労です。しかし、その中でお互いのつらさが何かのきっかけで了解できればいいと、私はいつも願っています。介護される人の寂しさや孤独の一端を少しでも感じることができれば、その人を受け入れることができる。そのことが大切だと思います。
 介護の相談の対応はものすごく具体的です。しかし、対話を通して、そんな「気づき」のきっかけになればとても幸せだといつも思っています。

 

相手の身になって考える
2006年12月の記事
 「認知症の母が、紙おむつを外してしまうので困っています」。時々、こうした相談が舞い込みます。確かに、こんなことがしばしば起これば介護する側は困ってしまい、外れないようにとおむつを何重にも当てたりする場合があります。しかし、それでは問題の解決になりません。認知症の人の行動といっても、人がすることには理由があり、それを探ることが大切です。
 おむつを外す理由としては、同じおむつを長時間当てられているため、濡れて気持ちが悪い場合もあります。排尿量に比べて吸収量が少なく、べたべたした感じが不快なのかもしれません。また、その状態を放置した結果、皮膚がかゆくなっていることもあるでしょう。おむつを何枚も重ねているために、不快で外してしまいたい、あるいは日中退屈で、ついおむつに手がいってしまうことも考えられます。
 このように、なぜおむつを外してしまうのかを、認知症とは切り離して考えることが大切です。そうしないと、おむつに手が入らないようになっている寝間着などを使用することになります。ただし、それを使用したところで根本的な解決にはならず、本人はますますつらくなり、結果として新たな行動を引き起こしかねません。
 排尿体験などをすれば、不快なおむつを外したくなる気持ちがよく理解できます。何重にも当てれば、足を閉じることができず、気持ちが良くないのも納得できます。介護に大切なのは、当人の状態に対する理解と共感です。言葉では難しいのですが、相手の身になって考えることは、きっと誰にでもできることではないでしょうか。

 

誤嚥を防ぐ
2006年11月の記事
 高齢者を介護している人から、「食べ物を口に運ぶと、むせてしまって困ります」という相談が時々あります。食べ物が食道ではなく、気管の方に行くことを誤嚥(ごえん)といいますが、体が不自由になった高齢者には、よく誤嚥してしまう人がいて、嚥下性の肺炎をしばしば引き起こします。
 誤嚥しないために大切なのは、食事をする姿勢です。介護ベッドの背中を上げ、ベッドにもたれたまま食事をするのは、とてものみ込みにくいので注意が必要です。ベッドに体を預けていると、どうしてもあごが上がりがちになり、食べ物が気管に入りやすくなります。
 可能ならベッドから足を下ろして座ってもらい、その前にテーブルを置いて食事をします。これなら自然にうつむいて食事ができ、むせにくくなります。その際、テーブルの高さもポイントです。高過ぎず、ひじをしっかり突けられる高さにします。
 水などの飲み物でもむせて困る場合は、少しとろみをつけるとのみ込みやすくなるでしょう。市販のとろみ剤を買うまでもなく、ゼラチンやかたくり粉、コーンスターチなどでも、とろみはつけられるので、うまく使えばおいしくて食べやすくなります。食事のメニューも少し工夫をして、コンソメスープではなくポタージュスープ、卵焼きよりも卵豆腐というように、口のなかでまとまりやすいものにすることで、のみ込みやすくなります。
 食事は誰にとっても大きな楽しみです。しかし、介護者が食事の姿勢や食べ物などに気を配らないと、食べにくく、つらいものになります。食べるときのちょっとした工夫が大切です。

 

トイレの悩み解消法
2006年10月の記事
「トイレが近くなり、夜中に何度もトイレに行くのですが……」といった相談を受けることがあります。頻尿の原因は前立腺肥大などいろいろあり、治療が必要な場合もあるので、泌尿器科で相談してみるのが解決の早道です。
 夜中にトイレまで行くのが大変な場合、男性なら尿瓶(しびん)などを使うのも一つの方法です。最近はカラフルでカバーもついていて、尿瓶には見えないものもあります。尿瓶を移動させる際に、こぼれないか心配という人には、口の部分に逆流防止弁がついたものもあります。これなら逆さにしてもこぼれてしまうことはありません。
 女性の場合、男性ほど尿瓶がうまく使えないことが多いといえます。そのため、ポータブルトイレをベッドのそばに置いて用を足す人も少なくありません。しかし、ポータブルトイレは大掛かりで、置きたくないという人もいるでしょう。
 そんな人には、端座位尿器が役に立ちます。これは、ベッドから床に足を下ろして座った姿勢(端座位)で使う尿器で、足を下ろした姿勢になれば尿器を差し込むことは難しくありません。漏れるのが心配なら、大きな吸水シートを敷いておけば安心です。
 8年前に亡くなった父は、70歳を過ぎたころから尿瓶を使っていました。夜中にトイレまで行くと目が覚めてなかなか寝つけないので、尿瓶がよかったらしいのです。朝、自分でこっそり捨てていたので、私は父の尿瓶になかなか気づきませんでした。そんなことも父のプライドを支えていたのだと、今になって思います。
 尿瓶など、小さな道具であっても排せつをしっかり支えるものなのですね。

 

介護に布団は不向き?
2006年9月の記事
 前回、「年を取ると、布団よりベッドの方が起き上がりやすい」という主旨でベッドの良さを紹介しましたが、「それでもやっぱり布団がいい」と言う人もいることでしょう。
 布団は、ベッドのようにかさばらず、段差もなくて伸びやかに眠れます。それに押し入れにしまえるので、部屋が広く使えて生活にメリハリがつきます。
 ただ、困るのは体が不自由になったときの起き上がりです。ぎっくり腰などを経験した人なら分かると思いますが、体が思うように動かなくなると、体を起こして立ち上がるのは大変なこと。これが布団の弱点といえます。
 しかし、そんな布団も工夫次第で楽に起き上がることができます。寝返りが楽にできるなら、布団の横に安定性のある台を置いておきます。すると、それに手を突いて立つことができます。布団から立つのが難しくても、台を置くことで大きな助けになります。
 手すりが必要になれば、布団の横に取りつけられる手すりもあります。これは畳一枚を持ち上げて、その下に手すりを挟み込んで固定するというもの。寝たきりになった方で、どうしても布団にこだわるという場合には、こんな工夫もいいでしょう。
 また、敷き布団の腰から上の部分に、空気が膨らむ仕掛けがついた装置もあります。必要なときに介護ベッドのように背上げをしてくれるので、「どうしても布団で」といった場合にはこんな方法もいかがでしょうか。
 眠りの様式は文化でもあり、好みでもあります。その人の好みやこだわりを尊重した上で、どうしたら起き上がりやすいかといった動作を考えてほしいですね。

 

ベッドを選ぶときのポイント
2006年8月の記事
  布団とベッド、どちらで寝ていますか?と尋ねると、以前は布団という答えが大半でした。しかし、近ごろではベッドと答える人が増えています。特に高齢の方に多いようです。
 寝具は「眠る」だけではなく、「起き上がる」という行為にも関係します。そう考えるとベッドは、介護ベッドのように背中の部分が上がらなくても、横から足を下ろせばいすのように座ることができます。そして簡単に立ち上がることができます。
 その点から考えても、高齢になれば確かにベッドは便利です。しかし、ベッドならどのようなものでもいい、というわけではありません。
 何より注意したいのが高さです。ベッドから足を下ろしたときに、足の裏全体が着くような高さが望ましいといえます。低過ぎると立つのが大変ですし、高過ぎると足がしっかり着きません。
 一般のベッドにはいろいろな工夫があり、例えばベッドの下に引き出しがついているものもあります。しかし、これはあまりおすすめできません。いすから立つことを想像しても分かるように、立つためには足を後ろに引く動作が重要で、引き出しがあるとこれが難しくなります。
 肝心のマットレスですが、これは寝心地にかかわるので硬さを確かめる必要があります。マットレスの素材もさまざまで、硬さも異なるため、選ぶときに注意が必要です。ベッドから落ちないか心配という人には、後から取りつけられるベッド柵があります。
 寝具という視点からだけではなく、いつまでも元気に暮らすための道具として、ベッドを選んでほしいですね。

 

福祉用具の見直しを
2006年7月の記事
 特別養護老人ホームで福祉用具の勉強会を始めて7年余りがたちます。これは、施設で暮らす高齢者一人ひとりについて、車いすが合っているか、オムツの選び方はそれでいいのかなどを大勢で検討し、福祉用具のあり方を学んでいくものです。
 先日は、ポータブルトイレを見直してみました。Hさんは高齢による筋力低下で、歩くのが難しい状況です。しかし、ベッドから介助バーを持って立つことはできます。本人は、人の手を借りないで自分で排せつしたいと望んでいますが、立ち上がってからポータブルトイレに座るときに体がふらついてしまいます。そのため、今は介助が必要となっています。
 Hさんの使っているポータブルトイレをよく見ると、アームレスト(ひじ掛け)が跳ね上がるものでした。そこで、アームレストを跳ね上げておき、そのまま座ってポータブルトイレに乗り移れないかを考えてみました。それなら転倒の不安は解消するからです。
 Hさんに体の動かし方を伝えた後、実際にやってもらいました。結果、ポータブルトイレにうまく移ることはできましたが、便座の穴にお尻がうまく合いません。そこで座ってからアームレストを下ろし、それを持ってお尻をずらしてもらうようにしました。
 Hさんは何度か練習したあと、自分でポータブルトイレに移れるようになりました。本人は「これでいつでもトイレができる」と喜んでいました。
 施設であれ、在宅であれ、現在使用している福祉用具を十分に検討してください。そのことで高齢者の暮らしがぐんと広がり、それが生活への意欲につながります。

 

においの原因と対策
2006年6月の記事
 雨の日が何日か続くと、部屋を開け放つことが難しいため、どうしてもにおいが部屋にこもります。介護が必要な高齢者の部屋はなおさらです。
 私のところにも、においに関する相談が多く寄せられます。「寝たきりの母の部屋に入ったら、何ともいえないにおいがして困っている」「いくら消臭スプレーをしてもにおいが消えない」などの相談が少なくありません。
 においの原因の一つは口臭だといわれます。体が不自由になると、どうしても口を清潔に保つのが難しく、歯磨きもできない場合もあります。しかし、介護者が口腔(こうくう)ケアを心掛ければ、においは少なくなるはずです。舌苔(ぜったい)の除去も重要で、そのための舌ブラシなどのグッズも市販されています。
 陰部清拭(せいしき)が不十分なために、におうこともあります。また、布団ににおいが染みついている場合や頭髪・体のにおいなども考えられます。まずは原因を突き止めてそれに対応した方が、部屋に消臭スプレーをまくよりもずっと有効でしょう。
 布団や肌着がにおっていたら、洗濯の際に洗濯用消臭剤を使うのも一つの方法。頑固なにおいがきれいに消えます。布団は、まめに干して乾いたものを使うこと。湿った寝具は安眠の妨げにもなります。
 ポータブルトイレにも脱臭機能がついたものがありますし、小型消臭器など消臭グッズはいろいろ市販されています。本人の前で消臭スプレーなどをまくことは慎みたいものです。においは暮らしの快適さに大きくかかわるからこそ、気持ちよくにおいを消したいものですね。

 

つえの上手な選び方
2006年5月の記事
  まだまだ元気な人でも、少し遠くへ行くときには折り畳みのつえが役に立ちます。
 先日も「老人会の旅行で熊野古道を歩くのですが、持っていった方がいいものはありますか」と尋ねられました。その人は76歳で足腰はしっかりしているのですが、私は「長く歩くと誰でも疲れてきます。折り畳みのつえは便利ですよ」と答えました。つえがあると、体を支えることができて歩きやすく、また、もし本人は不要だったとしても、仲間で必要な人がいたら貸してあげることもできます。
 近ごろでは、つえもおしゃれなものが出回っています。先日見つけたものは、友禅柄で桜や萩の模様がとてもきれいで、握りの形状も工夫されていました。若い人が「これなら私も使いたい」と言ったほどで、地味なイメージのものは少なくなっています。
 購入するときに気をつける点は、長さです。靴の先から前方約15cm、そこから横方向に約15cmのところでつえを突いたとして、ひじが軽く曲がるくらいの高さが持ちやすいといえます。もっと簡単な目安は、手を下げたとき、地面から手首の骨よりもやや高い位置を、つえの長さにするとよいでしょう。折り畳みの場合でも、長さが調節できるものがいろいろあるので、自分に合ったものを選ぶことが大切です。
 つえを何本も持っている私の友人は、服装とのコーディネートを考え、外出先によってつえを選んでいます。白いコートのときには真っ赤なつえ、告別式や法事には黒いつえと、TPOによっても変えるそうです。手元にあれば重宝するつえを上手に選んで、楽しく外出してほしいですね。

 

自立支援と周囲の協力
2006年4月の記事
 介護で大切なのは「自立支援」といわれます。「自立」は、非常に広くて深い意味を持つ言葉ですが、ここでは自立支援とは「過剰な支援ではなく、できることを増やしていけるような手助けをすること」という意味で考えていいのではないでしょうか。  先日、パーキンソン病の夫を介護する妻が相談に来ました。「トイレが間に合わず、オムツをあてているが、できるだけトイレで用を足してほしい。だから夜も2時と5時に目覚ましをかけてトイレに行ってもらっている」とのこと。「夫はポータブルトイレを使いたいと言うが、私は部屋にポータブルトイレを置きたくない。後始末もあるし、何より歩いてもらわないと足の筋肉が衰える。夫は夜中、自分でトイレに行くが、途中でもらすのかオムツが濡れていて困っている」  確かに、歩かなければ歩行機能は低下します。そうはさせたくないという妻の気持ちも分かりますが、ポータブルトイレがあることで夜間は間に合うのなら、それも一つの方法です。夜起きてトイレに行くのは、誰にとっても楽ではありません。近くにあれば、という本人の気持ちはよく分かりますし、間に合えば何より気持ちもいいでしょう。  パーキンソン病の進行は個人差があります。だからこそ「できることは自分で」ということの意味を丁寧に考える必要があります。「いつまでも自分で」というのは現実には無理が出てきます。できなくなったとき、それを周囲がしっかり受け止める姿勢が大切です。それがあってこその自立支援です。生活が本人にとってつらい訓練にならないよう、周囲は配慮する必要があります。